2021.12.17 00:51料理通信「新米オーナズストーリー」archive雑誌『料理通信』が創刊した2006年6月号から、2021年1月号での休刊まで、14年間続いた連載〈新米オーナーズストーリー〉。自分の店を持ったばかりの店主たち、その店づくりに関する物語です。その全149回からセレクトしつつ、ランダムに、本文全文を公開するシリーズをnoteにて始めていました(告知を忘れていました)。無料です!今活躍中のあの店の、最初の一歩をしみじみとご覧ください。
2020.12.06 08:27ADI(アディ)イノベイティブなネパール料理、というのかな。伝統料理そのままでなく、日本の素材と、オーナーシェフであるアディカリ・カンチャンさんのクリエイティビティが生かされたお料理です。彼が日本へ来たのは、大学で経済を学ぶためです。無事卒業したというのに、ああなってこうなって今、レストランという舞台にワクワクしている、ジェットコースタのような人生。そしてまた妻の明日美さんが、名前の通り、美しい明日を導いてくれるようなミューズ。超ポジティブな夫妻による、ジャパニーズ・ドリームの第一章を書かせていただいた気がします。この号で、「料理通信」は休刊が決定しました。「新米オーナーズ・ストーリー」もまた、連載149回を数えて終了です。2006年から、一つの連載を14年も、同じ編...
2020.10.26 01:50kuval (クバル)コロナをきかっけに、今どきの言葉でいうならワークライフバランス、つまり「仕事と生活の調和」を考え始めた料理人は多いです。でも「Kuval(クバル)」のオーナーシェフ、久原(くばる)将太さんと、妻でパティシエールの春香さん夫妻が三鷹という街を選んだのは、コロナ前の昨年末。それまで都心の店で働いていた二人は、初めて三鷹駅に降り立ったとき「緑が多くて、ライフとワークのバランスがいい街だな」と好きになったそうです。今思えば、1月にトイレや家具など発注しておいたのは幸運(輸入が止まる前だったから)、2月から自分たちも参加して内装をしている間に不穏な空気が忍び寄り、営業許可がおりたのは4月、緊急事態宣言当日でした。独立オープンなのに、レストランをオープンできない!...
2020.05.19 03:43コジコメ連載・新米オーナーズストーリーは、イタリア料理店「コジコメ」です。取材店を決める前に、ロケハンといって普通のお客として食べに行くのですが、3月下旬のこの店は満席でした。東京のレストランから客足が遠のくなか、まだ開店して1年に満たないお店なのに!と驚きました。しかしそのわずか数日後、「コジコメ」は自らお客に電話してキャンセルをお願いし、休業に入りました。決断は、感染拡大防止のためにほかなりません。約1カ月の休業。そして5月からは客数を絞って、時間を短縮しての縮小営業で再開。どの飲食店にとっても厳しい状況ですが、実績のない新しい店にはひときわ不安な1カ月だったと思います。でも、本誌の原稿を読んでみてください。人の心の機微をすくい取る井村シェフ、このごきげん...
2020.04.06 14:06nashwa ナシュワ赤羽といえば、センベロの街。料理通信〝らしからぬ〟ですよね。しかし今回は、〝らしからぬ〟の醍醐味を味わっていただきたいと思います。それはイメージという固定概念が気持ちよく、くつがえされたときの褒め言葉。ルーツはフランスやモードという異国、異分野にあり。という日本酒の酒場です。日本酒は今や、案内人のクリエイティビティに託されている気がします。
2020.03.07 02:46桑原商店五反田に「桑原商店」を見つけたときの嬉しさったらなかった。古い酒屋の倉庫を新しくリノベートして、ざっくりした倉庫っぽさとアートっぽさが同居している。とんがった空間。だけど迎えてくれるのはお父さんお母さん、息子に従兄弟のお嫁さんという家族だ。4代目はアートの仕事をしていて、いわく、美術のキュレーションは酒屋の仕事に通じる。本当にすべてが置き換えて考えられる、目からウロコの方程式。エッジと昭和が同居する、血の通った新しさです。
2020.02.12 03:37ダル バローネまさか中川英樹さんを、東京で取材するとは思っていなかったなぁ。2003年に上梓した『イタリアに行ってコックになる』(柴田書店)から始まって、2015年の『シェフを「つづける」ということ』(ミシマ社)、現在まで彼がどう生きるのかを見守ってきました。中川さんはイタリアで料理を始めたので、イタリアのイタリア料理しか知らない、それが強み。2002年の初取材から数えれば18年、最後はリストランテのシェフを務めるまでに成長した彼の料理は、子どもが成人したみたいにたくましくなっていました。奥沢という静かな街に開店した「ダル バローネ」は、イタリアワインを愛し、「オステリア・スプレンディド」で修業した鳥山真吾さんがオーナー。社会経験を積んだ鳥山さんと、イタリア経験を積...
2019.09.25 08:36Perte(ペルテ)新米オーナーズ・ストーリーは、千葉県の稲毛まで行って来ました。千葉、埼玉、神奈川などの東京近郊はなかなか雑誌編集部に取り上げてもらえない地域ですが、面白いエリアだと思っています。実力を持つ料理人やピッツァ職人、コーヒー焙煎士などが独立するとき、自分たちの生きる場所として脱・東京を選んだり。または町そのもののカルチャーや、新たなムーブメントが起こっていたり。今回は、昨年の「ナポリピッツァ職人世界選手権(カプート杯)」日本大会のS・T・G部門(マルゲリータまたはマリナーラ部門)で優勝したピッツァ職人、鈴川充高さんが独立した「Perte(ペルテ)」です。でも鈴川さんは広島出身だし、なぜ稲毛?と訊ねたら、「窯があったから」という想定外の答が返ってきました。同時...
2019.06.19 09:03ブンカ堂連載・新米オーナーズストーリーは、いわゆるセンベロの町・立石の「ブンカ堂」です。オーナーの西村さんは立石生まれの立石育ち。「この町に無いものがよそにあるなら出たんだろうけど」、結局、出なかった。それは彼に必要なものが、この町に全部あったということです。キャップを浅く被ったおじさんが昼からお酒を呑むのがあたりまえの町で、西村さんはニコニコと、自分の祖父くらいのお客さんも、若い世代のお客さんもふわっと迎えます。みんなが同じように許される。「1000円で2時間いる人」だって許される。なぜなら「僕があくせくしなくて済むからです」。「これ無理」とか、「許せない」のほうが多く聞こえる時代にあって、許すやさしさが受け継がれているお店です。
2019.04.05 06:56サプライロケハンといって、取材候補に挙がっているお店には、必ず担当編集者と普通に食事に行きます。普通に食べ、普通に呑み、普通のお喋りをします。料理の話やお店の話などでなく、片足立ちで靴下が履けるかとか、朝ドラの松坂慶子は水中花を超えたとか、なんだかちょっとしょぼめの話ですね。そうしてゲラゲラ笑って、あー楽しかった!って言えるお店は間違いない。今月の連載・新米オーナーズストーリーに登場してくれた「サプライ」は、それに加えて、また来ようね!って自然と口からこぼれていました。幡ヶ谷に引っ越そうかなぁ。
2019.02.07 02:57「デリカ」料理通信 2019.2.6つくづく、お店はスペックではないのだなぁと思います。埼玉食材だから、ナチュラルワインもクラフトビールも日本酒も飲めるから行きたくなる、というわけではなくて。むしろ、都心の人気店で修業した彼がなぜ大宮?という謎も残しつつ。そんなこんなが吹き飛ぶような「デリカ」のあの気持ちよさは、行ってみなければわからない。なんてことを言っては書き手としておしまいなので、気持ちよさの理由を一生懸命探り、書きました。鍵は神社にありましたよ。連載「新米オーナーズストーリー」です。
2019.01.07 02:58「荒木町 きんつぎ」料理通信 2019.1.6毎年恒例の新年お菓子特集、今年はめちゃめちゃラブリーな表紙の『料理通信』。が、連載・新米オーナーズ・ストーリーは運動部出身、男子二人の和食店「荒木町 きんつぎ」です。二人とも、学芸大学の居酒屋「件(くだん)」出身。ここの卒業生は、三軒茶屋「鈴しろ」、大井町「木の花」、そして神泉「日和」などみんな大活躍されています。「件」店主の川辺さんは、人を育てて伸ばすのがきっと上手いに違いないのですが、自身もまた彼らと一緒に今も成長期という「長男」みたいな存在なんですね。ともあれ「荒木町 きんつぎ」もまた、開店早々から満席続き。彼らは実に清々しい。その気持ちよさが、店の隅々にまで行き渡っています。この日本で、よくこのように育ってくれたと、なぜか感謝してしまいました。