2024.10.22 05:19蒜山耕藝/僕らの新しいローカリズム5月の、水を引いた田んぼは鏡のように美しいですね。2011年、岡山・蒜山へ高谷裕治さん・絵里香さん夫妻が移り住んだことから、美しくも過疎化が進むこの里山に「動き」が生まれました。二人は「蒜山耕藝(ひるぜんこうげい)」という屋号を掲げ、自然栽培で米や豆、野菜などを育てます。その作物を使って、醤油や味噌などの調味料、白玉粉やきなこといったほっとするおやつの材料などのプロダクトを作ります。2014年12月にはカフェ「くど」を開店。すると、彼らのナチュラルな暮らしや人柄、蒜山の水や風景に惹かれて、ものづくりに携わる人々が集まり始めました。器、帽子、伝統工芸、絵画、ライブ……。「蒜山耕藝」のインスタグラムを眺めると、しょっちゅう素敵なイベントが催され、楽しそうで...
2024.10.15 10:28「ロス・タコス・アスーレス」阿部莉香さん/女将のいる場所莉香。ジャスミンの花の香り。清潔感があって、それでいて甘やかで優しさの深い、白い花の香りです。そういう名前を持つ人の物語。三軒茶屋の「ロス・タコス・アスーレス」は、なんとなくコロナビールだったタコスの印象をガラリと変える、ガストロノミックでオーガニックなタコス。それでいて朝から、1個から楽しめるデイリーな世界観を、ついに実現したお店です。シェフは、マルコ・ガリシアさん、女将が阿部莉香さん。アーティスティックなマルコさんの発想にびっくりしながら魅かれ、それを現実に落とし込んでいく莉香さんのおおさかさと行動力。私もまたびっくりしながら、憧れました。「今はまだ誰にも見えない景色が彼には見えていて、アイデアが実現すればきっと結果が出せる。そんな人が諦めなくては...
2024.10.10 03:47オルランド/dancyu「東京で十年。」という連載をつづけて幸福に思うのは、「このお店の10年後を見てみたい」そして「書いてみたい」と願って、本当に書けることです。神泉の「オルランド」もそうでした。代官山「ラ・フォルナーチェ」から始まって昇り龍だった小串貴昌さんが、満を持した店も自信も失い、「だけどこのままじゃ終われない」と背水の陣でオープンしたエノテカ。私は10年前、たったひとりDIYで改装する彼を、通りからちらっと眺めたことがあります。黙々と大工仕事に励む光景は、再生への儀式のようでもありました。その時、まだ開店もしていないのに「10年後を書きたい」って思ったんです。現在発売中の『dancyu』11月号で、その願いが叶っています。すでに公表されている通り、『dancyu』...
2024.09.30 23:38鉄輪温泉、おいしい地獄今月も可愛い水森亜土さんの表紙。『月刊日本橋』の連載は、別府温泉がテーマです。いつも気軽に「別府温泉」と呼んでいた大分県の有名温泉地が、じつは「別府八湯」という正式名称だということをご存知でしたか?私は知りませんでした。名の通り8つの温泉郷を持つことも、昨年訪れて初めて知ったんです。その八湯の一つが鉄輪(かんなわ)温泉。別府といえば思い出す、いくつもの噴煙が地中から吹き出す光景は、ここ鉄輪のものです。地獄さながら、ということで昔から「地獄」と呼ばれてきましたが、鉄輪の人はなんだかおもしろがるように「地獄」を連発します。「ようこそ地獄へ」に始まり、「地獄プリン」「地獄蒸し肉まん」「地獄蒸しピザ」……。つまりは温泉の熱くて強い蒸気で作る蒸し料理がおいしいん...
2024.09.17 23:12イルリコッターロ/僕らの新しいローカリズム「僕はリコッタをつくりたいから、チーズをつくるんです」おもしろいことをいう人だなぁと思った。なぜならリコッタとは、主役のチーズをつくる際に出るホエー(乳清)をricotta(再加熱)してつくられる副産物。いわば“おまけ”のほうを、彼は主役に据えているのだから。でも、そういえば工房の名はIl Rcottaro=リコッタをつくる人、だ。(本文より抜粋)なぜ、リコッタチーズなのだろう?チーズ職人・竹内雄一郎さんの言葉を紐解いていくと、歴史、民俗、郷土、自然、環境といった広い視野をもった彼の答えが「リコッタ」であり、心が「今、ここ」を指したのだと感じます。たったひとりの工房ですが、竹内さんのチーズは日本全国のファンに届いています。
2024.09.06 05:13LAMMAS(ランマス)/dancyudancyu連載「東京で十年。」、今月は三軒茶屋のチーズ専門店「LAMMAS(ランマス)」です。ヨーロッパにはチーズを「製造する」つくり手のほかに「熟成させる」プロがいます。「熟成師」の仕事で、チーズの質はより高められ、味わいの幅もぐんと広がる。イタリアでその味に出会い、チーズ熟成工房で働き、料理からチーズに転向した富山和亮さんが東京で開いた「LAMMAS」。10年前は、たった6坪の小さなお店だったんです。それが今や本店のほか、六本木と虎ノ門の2つのヒルズにお店を構えています。彼がやりたかったのは、熟成師チーズのおいしさを正しく伝えること。そのために品質を保持して、お客さんを絶対にがっかりさせないこと。耐える時が続いた数年間、彼はなんと昼間に別の仕事を...
2024.09.02 04:32奈良・天に近い村の鮎『月刊日本橋』の連載・道の先に食あり。今月は奈良の山の中、いや山の上にある「天川村」で食べた鮎のお話です。昨年の取材で訪れた場所ですが、ここではスピンオフ的なお話を。霊験あらたかな山の温泉街で、修験者が身体をあたためるのだといいます。ちょうどお豆腐屋で修行の帰りだという修験者たちに合ったら、水が良いからお豆腐がおいしいと教えてくれました。修行を終えて彼らはまず、中華料理をおなかいっぱい食べたのだそうです。思い出してもちょっと不思議な、夢だったのかな?と思うような村でした。
2024.08.20 09:44蒜山醸造所 つちとみず/僕らの新しいローカリズム蒜山編の第2回は、野生酵母でビールを醸す「蒜山醸造所 つちとみず」です。蒜山の人々から「すぎちゃん」と呼ばれ愛される醸造家は、48歳で公務員からの転身でした。余談ですが、工房の片隅に、親しい友人の名前と正の字が書き込まれたメモを発見。たぶんご近所仲間が、杉さんが留守の時にビールを買い、買った分だけ本数を書き込む自己申告のメモ。おおらかな蒜山の暮らし、いいなぁ。
2024.08.16 09:04「泰明庵」濱野照子さん/女将のいる場所「おとなの週末」隔月連載「女将のいる場所」。今回は銀座の蕎麦・軽食「泰明庵」の女将、濱野照子さんです。困っている人をたすけたい人。見て見ぬふりができない人。口で言うのは簡単ですが、自分の性分として、どうしようもなくそうである人に、私はそうそう会ったことがありません。戦後の銀座で育った濱野さんは、10歳頃にアメリカ兵にトイレの場所を訊かれ、とっさに「公園のトイレは汚いし」と頭をフル回転。リニューアルした百貨店のトイレを思いつき、でも「教えるだけじゃ道に迷うかも」と見知らぬアメリカ兵を百貨店まで案内しました。原稿を書く時、グーグルマップでその距離を調べてみたら、400メートルくらいある。大通りも越えて、今の銀座で言えば5ブロック先です。子ども時代からそこま...
2024.08.10 08:54堀田茜さんのラジオ出演何度か呼んでいただいている、堀田茜さんのJ-WAVE「ENEOS FOR OUR EARTH -ONE BY ONE-」に2週連続で出演しました。1週目は「僕らの新しいローカリズム」より蒜山のお話。2週目は「月刊日本橋」より富山の人の昆布好きのお話。堀田さん、スタッフの皆さん、ありがとうございました。
2024.08.09 11:38鮨竹/dancyu江戸前鮨、「鶴八」一門、銀座、そして女性。いくつもの難関をくぐり抜けてきた、鮨職人です。鮨職人の世界に飛び込んだ時は、「知らな過ぎて怖さもなかった」という言葉が印象的でした。知らないって案外、大事かもしれませんね。ここまで書いていいのかな、でも大事なことだな、と恐る恐る書いたことも、全部オッケー。本当に任侠映画のような、さばさばっとした鮨職人でした。でも,私は開店当時のジーン・セバーグみたいなキュートさも、目に焼き付いて忘れられないのです。
2024.08.09 09:58京都「たつみ」/Meets Regional関西の「街と店」を楽しむ雑誌、Meets Regionalさん。特集「みんなの居酒屋」で、京都の「たつみ」を書かせてもらっています。おそらくお店の人は、井川直子なんてご存じない。挨拶もしたことがない。勝手にふらっと行って、すっと帰る居酒屋です。原稿執筆の直前に、鳥取の汽水の湖に行っていたので、多分に汽水フレーバーな原稿となっております。