2025.09.01 12:05福井の焼鳥アナザーワールド/月刊日本橋日本各地を巡っていて、いつも思うのは、人の郷土愛は「日本一」という地位を得て成就するのではないか?ということ。鶏肉に関する日本一はとても多い。でも実のところ、データにならないことのほうがおもしろい。福井へ取材した時、案内人が満を持して感満載で連れて行ってくれたのが焼き鳥店。庶民的な店構えだが、ちょっと変。テーブルの真中に、焼肉店かお好み焼き店のような設えで、ステンレス製のホットプレートがスタンバイしているのだ。「温かいまま食べられるでしょ?」一口が小さくて、みんな10本20本と注文していく。あんなにリラックスした焼鳥の楽しさは日本一!と思ったお話です。
2025.08.02 11:39ルーラルカプリ農場/月刊日本橋連載の33回は、「岡山、母乳に近い山羊乳のフロマージュ」。ルーラルカプリって響きからして楽しいですよね。岡山の意外は、新幹線のぞみで新神戸の次だってこと。そして井川個人の実感では、北海道なみにヨーロッパ的な食材が揃う土地であることです。岡山市の「ルーラルカプリ農場」を訪れたのは、17年ぶり2度目でした。珍しい山羊専門の農場でありチーズ工房で、イタリアのバールのようなカフェも併設されています。なにより農場種の小林真人さんが魅力的。岡山に訪れたなら、ぜひ行ってみてください。
2025.03.01 10:46金沢のエビ文化、ガスエビ/月刊日本橋冬から春先の金沢は、エビ。白エビ、甘エビ、ガスエビ。なかでも「ガスエビ」の文字を品書きに見つけたら、食べることに決めている。「漁獲量が少なく、鮮度落ちも早いためよその土地には流れないが、じつは甘エビよりも甘味が強く、身質もなめらか。そのリミテッドなおいしさは、長く地元だけにもたらされる特権だった。」(本文より)揚げたのが最高。ちなみに秋田では「ガサエビ」といいます。
2024.03.01 00:53和歌山ラーメンと早すしおなじみ『月刊日本橋』の連載エッセイ。今月は、高野山での精進料理取材からの和歌山ラーメン。聖と俗も混濁する豚骨醤油のラーメンを食べに行ったら、謎の「早すし」があったというお話。「早」があるということは、時間をかけるお寿司もあるわけで。和歌山は「熟れすし」の食文化が先にあったのですね。何個食べたか自己申告制のおおらかさを含め、和歌山って奥行きのある土地でした。
2022.12.05 11:59ナインリーヴズの、ものづくり魂の「国産ラム酒」2年間続けた、月刊日本橋の連載「食の源をたどれば」。造り手にフォーカスしたこのテーマとしては、24回目でいったん最終回。来年からは、食べる側目線での新連載が始まります。で、最終回は滋賀のクラフトラム酒「ナインリーヴズ」。高校生の頃、理系の友人が不意に語ったひと言「化学ってじつは文学。ケミストリーはロマンティックなんだよ」を、大人になって実感させてくれた造り手のひとりです。そういえば星新一のショート・ショートを教えてくれたのも彼女だったなぁ。
2022.11.09 09:15丸正酢醸造元の、祈りの「酢」月刊日本橋「食の源をたどれば」題23回は、丸正酢醸造元。常々、日本酒蔵は神社に通じていると思っていたけれど、お酢の蔵もまた然りでした。世界遺産の熊野古道を有する那智勝浦で、明治12年から酢造りをしている丸正酢醸造元。仕込み水は、滝自体が神社の御神体である那智滝の伏流水。という霊験あらたかなお酢の蔵ですが、三代目の小坂晴次さんは豪快、愉快なお人柄。木桶に「羽黒山」「双葉山」など歴代横綱の名をつけて呼び、「彼ら」に法螺貝を、ブオオ〜っと聴かせていました。今回、エッセイを書くにあたり連絡をすると、小坂さんは2019年に93歳で他界されていました。でも、最後の挨拶を生前に自身で録音し、BGMまで決め、お通夜もお葬式も自己プロデュースされたそうです。あの笑顔と、...
2022.10.01 09:08古野農場の、未来をつくる「米」先駆者と呼ばれる人たちは、みな孤独な時期を経ています。誰にも見えない未来が見えてしまう人は、見えぬ人々にとって〝異端〟になる。今、目の前にないことを信じるのはとても難しいこと。そんな「見えてしまう人」のお話です。古野農場の古野隆雄さんは、農薬散布が常識だった昭和53年に無農薬有機栽培へと舵を切った人。合鴨農法で米を育てています。有吉佐和子の『複合汚染』を読んで、人間にとって危機的な未来が見えた古野さんは、しかし決して悲観的ではなく、いつも明るく前向き。どんなに孤独でも孤独に甘んじない彼は、お米を通して、私たちにも未来を見せてくれます。
2022.09.01 09:02高尾農園の、大血の一滴「オリーブオイル」月刊日本橋の連載「食の源をたどれば」。第21回は日本のオリーブオイルをつくる、高尾農園です。たった一人でノコギリを手に、荒れ地を開墾するところから始めました。いいものを作りたくて、納得いかない味なものは世に出したくない。その味を認めたのは、世界。今年6月のフランス『Olivonomy PARIS AWARDS 2022』でも、最高得点での最高賞を獲得舌オリーブオイルです。
2022.08.01 10:02メツゲライ・イケダ月刊日本橋の連載「食の源をたどれば」第20回は、富山のメツゲライ・イケダです。日本では長らく、食べものの原料を「育てる人」と、それらを加工して「つくる人」が切り離されてきましたが、近年では「育てる→つくる」が高いレベルで実現されています。それが、野菜や果実だけでなく、畜産で行われているのがメツゲライ・イケダ。父が畜産家、息子がソーセージ・ハム職人。牧場から食卓へ家族で届けるチームです。
2022.07.01 10:10SHIBUYA CHEESE STANDの、できたて「モッツァレラ」モッツァレラチーズは、原産地の南イタリア・カンパーニャ州では、ちょうど日本のお豆腐のよう。町のチーズ専門店や食材店で、朝できたばかりのそれを買い、早めに食べます。フレッシュが命のチーズだけれど、日本の、それも都市部で作りたてなんて不可能。とは考えなかった人がいて、それがSHIBUYA CHEESE STAND(渋谷チーズスタンド)の藤川真至さんでした。
2022.06.06 12:27月向農園月刊日本橋の連載「食の源をたどれば」は、和歌山の「月向農園」です。生産者は、どの地点を見据えて食べものを作るか?それによって、農産物の、味の着地点は違ってきます。見えているか、どこを見ているか。そう考えると、農業が観るべき時間の距離は、果てしなく長いなぁと思います。
2022.04.19 02:38瀬戸谷もみじの「和」紅茶『月刊日本橋』に連載中の、「食の源をたどれば」第16回は、静岡の和紅茶「瀬戸谷もみじ」です。かつて明治時代の日本では、欧米で人気の紅茶を輸出すべく、政府が緑茶からの生産転換を推奨していたそうです。けれど戦後に輸入自由化となり、海外製の紅茶が押し寄せて国産紅茶は誰も作らなくなっていきました。ただ、少数ながら情熱を持って紅茶をつくり続けている生産者も、いたのです。海外の技術を学びながら、ない機械は自分たちで手作りし、日本の紅茶を。日本人は海外のプロダクトを真似するのが得意ですが、いつの時代も「似たものを」ではなく「日本ならではの」ものに仕上げようとします。といっても名前やエッセンスだけ抜き取った強引な個性ではありません。いつだったか、イタリアで聞いた言葉を...