2022.12.05 11:59ナインリーヴズの、ものづくり魂の「国産ラム酒」2年間続けた、月刊日本橋の連載「食の源をたどれば」。造り手にフォーカスしたこのテーマとしては、24回目でいったん最終回。来年からは、食べる側目線での新連載が始まります。で、最終回は滋賀のクラフトラム酒「ナインリーヴズ」。高校生の頃、理系の友人が不意に語ったひと言「化学ってじつは文学。ケミストリーはロマンティックなんだよ」を、大人になって実感させてくれた造り手のひとりです。そういえば星新一のショート・ショートを教えてくれたのも彼女だったなぁ。
2022.11.09 09:15丸正酢醸造元の、祈りの「酢」月刊日本橋「食の源をたどれば」題23回は、丸正酢醸造元。常々、日本酒蔵は神社に通じていると思っていたけれど、お酢の蔵もまた然りでした。世界遺産の熊野古道を有する那智勝浦で、明治12年から酢造りをしている丸正酢醸造元。仕込み水は、滝自体が神社の御神体である那智滝の伏流水。という霊験あらたかなお酢の蔵ですが、三代目の小坂晴次さんは豪快、愉快なお人柄。木桶に「羽黒山」「双葉山」など歴代横綱の名をつけて呼び、「彼ら」に法螺貝を、ブオオ〜っと聴かせていました。今回、エッセイを書くにあたり連絡をすると、小坂さんは2019年に93歳で他界されていました。でも、最後の挨拶を生前に自身で録音し、BGMまで決め、お通夜もお葬式も自己プロデュースされたそうです。あの笑顔と、...
2022.10.01 09:08古野農場の、未来をつくる「米」先駆者と呼ばれる人たちは、みな孤独な時期を経ています。誰にも見えない未来が見えてしまう人は、見えぬ人々にとって〝異端〟になる。今、目の前にないことを信じるのはとても難しいこと。そんな「見えてしまう人」のお話です。古野農場の古野隆雄さんは、農薬散布が常識だった昭和53年に無農薬有機栽培へと舵を切った人。合鴨農法で米を育てています。有吉佐和子の『複合汚染』を読んで、人間にとって危機的な未来が見えた古野さんは、しかし決して悲観的ではなく、いつも明るく前向き。どんなに孤独でも孤独に甘んじない彼は、お米を通して、私たちにも未来を見せてくれます。
2022.09.01 09:02高尾農園の、大血の一滴「オリーブオイル」月刊日本橋の連載「食の源をたどれば」。第21回は日本のオリーブオイルをつくる、高尾農園です。たった一人でノコギリを手に、荒れ地を開墾するところから始めました。いいものを作りたくて、納得いかない味なものは世に出したくない。その味を認めたのは、世界。今年6月のフランス『Olivonomy PARIS AWARDS 2022』でも、最高得点での最高賞を獲得舌オリーブオイルです。
2022.08.01 10:02メツゲライ・イケダ月刊日本橋の連載「食の源をたどれば」第20回は、富山のメツゲライ・イケダです。日本では長らく、食べものの原料を「育てる人」と、それらを加工して「つくる人」が切り離されてきましたが、近年では「育てる→つくる」が高いレベルで実現されています。それが、野菜や果実だけでなく、畜産で行われているのがメツゲライ・イケダ。父が畜産家、息子がソーセージ・ハム職人。牧場から食卓へ家族で届けるチームです。
2022.07.01 10:10SHIBUYA CHEESE STANDの、できたて「モッツァレラ」モッツァレラチーズは、原産地の南イタリア・カンパーニャ州では、ちょうど日本のお豆腐のよう。町のチーズ専門店や食材店で、朝できたばかりのそれを買い、早めに食べます。フレッシュが命のチーズだけれど、日本の、それも都市部で作りたてなんて不可能。とは考えなかった人がいて、それがSHIBUYA CHEESE STAND(渋谷チーズスタンド)の藤川真至さんでした。
2022.06.06 12:27月向農園月刊日本橋の連載「食の源をたどれば」は、和歌山の「月向農園」です。生産者は、どの地点を見据えて食べものを作るか?それによって、農産物の、味の着地点は違ってきます。見えているか、どこを見ているか。そう考えると、農業が観るべき時間の距離は、果てしなく長いなぁと思います。
2022.04.19 02:38瀬戸谷もみじの「和」紅茶『月刊日本橋』に連載中の、「食の源をたどれば」第16回は、静岡の和紅茶「瀬戸谷もみじ」です。かつて明治時代の日本では、欧米で人気の紅茶を輸出すべく、政府が緑茶からの生産転換を推奨していたそうです。けれど戦後に輸入自由化となり、海外製の紅茶が押し寄せて国産紅茶は誰も作らなくなっていきました。ただ、少数ながら情熱を持って紅茶をつくり続けている生産者も、いたのです。海外の技術を学びながら、ない機械は自分たちで手作りし、日本の紅茶を。日本人は海外のプロダクトを真似するのが得意ですが、いつの時代も「似たものを」ではなく「日本ならではの」ものに仕上げようとします。といっても名前やエッセンスだけ抜き取った強引な個性ではありません。いつだったか、イタリアで聞いた言葉を...
2022.03.08 08:18パネッツァの「薪窯」で焼くイタリアパン月刊日本橋の連載、「食の源をたどれば」第15回は、茨城・つくばのイタリアパン工房「パネッツァ」。イタリアで修業した職人による、イタリア専門の、それも薪窯で焼くパンです。職人の角谷聡さんは、イタリアでもパンの街といわれる、ラツィオ州ジェンツァーノ・ディ・ローマで、伝統的なパンを学んできました。日本ではなかなかお目にかかれない、塩なしのトスカーナパンも素晴らしい迫力です。
2022.02.08 02:22羽場こうじ店の「急がない」麹と味噌月刊日本橋2月号の連載「食の源をたどれば」は、秋田の羽場こうじ店です。麹屋ってご存知ですか?自家製味噌や、秋田では漬け物などの保存食にも欠かせない麹。それを製造・販売する専門店です。米どころ秋田の、さらに米どころ横手市には、かつて集落に1軒はあったそうです。お豆腐屋みたいですよね。今、自家製味噌を作る家のほうが少ない時代になりましたが、羽場こうじ店では各家庭ごとカスタムメイドのお味噌を作ってあげてます。手軽に試したい人は、既製品の「㐂助みそ」もあります。麹たっぷりで、お出汁が要らないという人もいるほど旨味を感じる味噌。昔ながらの、ちょっとのんびりとした作り方がおいしさを育てています。
2022.01.08 07:16剣菱酒造の「変わらぬ」日本酒月刊日本橋の連載「食の源をたどれば」は2年目に入りました。2022年1月号、2周目のトップは兵庫・灘の剣菱酒造。私は2013年に、dancyu 3月号でこの蔵を取材しています。当時のタイトルは「剣菱 100年残る味」。大手ですが大きな造りでなく、小さな蔵と同じ造り方を人海戦術で行っていることに衝撃を受けました。「止まった時計でいること」この初代の家訓のおかげで、代々の継ぎ手が本質を見失わずに済んだのです。そんな尊敬する蔵の「変わらぬ」酒について書いています。
2021.12.07 10:57玉村本店の「志賀高原ビール」ビールは工業製品でなく農産物。そう実感した日本のクラフトビールです。初めて取材したのは2010年。かつて「地ビール」と呼ばれ、いったん下降した日本のクラフトビールの復活の兆しが見えた頃です。志賀高原ビールはその立役者。かっこよくておいしくて、何より日常といえる価格にまで近づけた。野外音楽ライブなど、「ビールを取り巻く文化」にまで視野を広げてくれました。その真ん中にある思想が「自分が飲みたいビール」であること。シンプルは強い!ですね。