「葡吞」熊坂智美さん

この夏が去年と同じなら、「葡吞(ぶのん)」は、飲食でつながる仲間が世界から集まってきて、夜が深まるほどカオスと化していました。木造2階建ての狭くてキシキシいう階段を、女将の熊坂智美さんはおてんば娘のように着物で駆け上がり、駆け下り。

けれど取材は、東京都が2回めの営業短縮要請を出した後。

西麻布の街自体が元気を失っているなか、「葡吞」は淡々と店を開けていました。

繰り返しますが去年と同じなら、営業前には次々とかかってくる予約の電話を受けながら、その日のメニューを毛筆で書く彼女。今回は静寂のなかで筆をすべらせていて、祈るようなその姿が、神々しくもありました。

連載「地球は女将で回ってる」。第3回は「葡吞」の女将、熊坂智美さんです。

〈彼女はプロの女将。ソムリエールでメートル・ド・テルで、『葡吞』家の美しいお母さんでもある。〉ー本文よりー