vol.3 順番をシャッフルする。

書籍化が決定した時点で、連載の「僕らが尊敬する 昭和のこころ」は、すでに第26回まで進んでいました。

9月の発行とすると、スケジュールで言えばギリギリ第28回までいけそう。
だけど、分量としてはどうか。28回分って多いのでは? セレクトしては? という意見も出ました。
しかし私は仲間はずれが嫌いな性分で、どれも外せない。

たしかに本は、ページ数が増えると紙代がかかって、発売価格が高くなります。

ですが今回私たちが心配したのは、それよりも「読者の読み心地」でした。もともとが連載なので、ほぼ同じ文字数の文章が、規則的に何度も繰り返されることになる。すると、単に掲載順にまとめただけでは、どこかカタログ的になってしまう危険があります。

電車の規則的なガタンゴトンが眠くなるように、読み手が飽きてしまうかもしれない。

そうではなくて、本書では「読者がリズムと流れをもって読み進め、かつ好きなところからでも読みやすく」したい。

そこで、順番をシャッフルして「リズムと流れ」をつくろうと考えました。であれば、28回分いけるのでは? 

で、3つのシャッフルパターンを考えたわけです。

①昭和の店が、初代、二代目、三代目の順
②昭和の店の創業年順
③尊敬している「僕ら」の業種(料理人、ソムリエ)、分野(イタリア料理、日本料理、ワイン、日本酒など)別

①は、それぞれの代(立場)で異なるストーリーが展開できるでしょう。
②はおそらく最も順当な、わかりやすい流れ。これであれば、昭和の時代背景などもコラムで挟み込めます。
③は目線が逆。「昭和の店」でなく、それを見ている若い飲食人を基準にした分け方です。

結果を言うと、私たちが選択したのは③でした。
この本は、昭和の店ガイドでもなければ、昭和=ノスタルジーを語りたいわけでもまったくない。伝えたいのは「若い飲食人たちがなぜ、昭和の店に通うのか」「そこに何があるのか?」ということです。
であれば、立ち位置は「僕ら」の目線。
そう思い至ったら、すべてがすとんと腑に落ちて、みんなに迷いが無くなりました。
編集の田中さんが台割りをやりくりしてくれて、価格も高くならなくて済みそう!
ということで、本書には28回分、すべて収録されています。