2020.11.26 11:27本当のおにぎり 2020.11.21 子どもの頃、私のおにぎりはお習字の半紙にくるまれていた。 遠足などでパティ&ジミーの包みを開くと、お弁当箱の上にぽこっと二つ、丸いものを四角く包んだ無骨なそれがのっている。 ある日クラスメイトが覗き込んで、「何それ?」 と訊ねてきた。おにぎりだと答えるとびっくりして、中身の見える透明なフィルムにくるまれた三角形のおにぎりを見せて言う。「これが、おにぎりだよ」 ガーン、である。 おにぎりとはラップやアルミホイルでくるまれるべきもの。それが文明。うちは遅れている、というかお母さんはきっと間違えている。大変、早く教えてあげなくちゃ。 使命感に燃えた小学生女子は、台所で洗い物をする母に空の弁当箱を差し出すとき、...
2020.11.13 00:15魯肉飯のさえずり 書評二度目の『文學界』は書評の仕事でした。『魯肉飯のさえずり』(著・温又柔/中央公論新社)。魯肉飯は「ルーローファン」ではなくて、主人公の(と同時に筆者の)台湾人の母の発音で「ロバプン」だそうです。台湾語の正確な発音うんぬんというところにない、いわく「ママ語」。この言葉があらわすように、台湾生まれ日本育ちの主人公の「何者であるか」からの解放が描かれています。その物語の縦軸になっているのが、母と娘。拙著『不肖の娘でも』とつながるテーマでもあり、書評タイトルは「母という娘」にしました。一気に読んで書いた原稿は本誌をご覧いただくとして、書き終わって、アン・リー監督の『恋人たちの食卓』(原題は飲食男女)をたまらなく思い出してしまいました。こちらは父と三人の娘たちの...
2020.11.08 02:08「オストゥ」宮根美苗さん連載「地球は女将で回ってる」は、あのウディ・アレンの映画タイトルをもじった……いえオマージュなわけですが、シェフの影になってあまり日が当たらないけれど、お店という地球は女将やマダムによって回されている!ということを証明する連載でもあります。で、第4回は代々木公園のイタリア料理店「オストゥ」のマダム、宮根美苗さん。「地味で細かくて正確な仕事が好き」な彼女は、日陰の存在をむしろ好むような女性。取材を受けてくださるか心配でしたが、いつかぜひ書かせていただきたいマダムでした。いわゆるマダムの華や仕切り回しとは遠いタイプなんですが、世界が微粒子でできているなら、「オストゥ」の微粒子は美苗さんでできている、と感じます。じつは美苗さん、イカワ版〝世界が尊敬する日本人...
2020.11.06 06:16東京で三十年。「分とく山」今月号から、dancyuは創刊三十周年yearだそうです。1990年。グルメブームの頂上にあって、バブル崩壊の直前という、ある意味ドラマティックな時代でした。三十周年の特別企画で、「東京で十年。」は「東京で三十年。」となり、3ページに増量して、なんと3号連続で三十周年のお店が登場します。第1弾は「分とく山」。扉の写真は、野﨑洋光さんのありがたい福顔。拝めばきっとご利益があると思います。バブルという天井知らずな時代を創っていた人々が棲息していた西麻布、彼らに愛された「分とく山」は、じつは創刊号に登場されていました。取材時、創刊号をパラパラとめくっていた野﨑さんは懐かしそうに、しかしすこし残念そうに、「この店も、この店もなくなってしまったなぁ。いいお店だっ...