「オルガン」の十年。

連載「東京で十年。」vol.81は西荻窪の「organ(オルガン)」、2011年6月のオープンです。

オーナーシェフの紺野真さんといえば、2005年5月に三軒茶屋からけっこうな距離を歩いたところに「uguisu(ウグイス)」を構えて以来、東京のナチュラルワインとともに歩いてきた人。取材者として訊かねばならぬこと、個人的に訊きたいことはたくさんありました。

ナチュラルワインのこと、2店舗目を持った理由、西荻窪という街について、たくさんの卒業生たち。出自であるサービスの哲学と技術、音楽、喫茶店、空間、豊洲、そしてぐんぐん変わっていった料理。

あれもこれも訊いてみたいという思いが増えるほど、逆に、私に書けるだろうか?と不安になっていきました。なぜなら紺野さんは、ご自身の文章がとても素敵だからです。

肩の力がふわっと抜けた、心地よい音楽のような文章を書かれます。その世界観を私が壊してしまわないか、心配でした。


でもコロナ禍、2021年のGW前に酒類提供の禁止が決まった時、紺野さんは数日間「オルガン」を休んで熟考した後、SNSにこう書かれていたんです。


〝何にせよ、僕は決められたルールの中で、妻にもスタッフにも親にも恥ずかしくない行動を取りたいと思います。
そしてイチローも言っていました。「2つの選択肢があるなら大変な方を選ぶ」つもりです。
そしてせっかくなら、その大変な方の選択を楽しめるように工夫したいと思います。〟(インスタグラムより)


ああ、やっぱりお話を訊きたいな、とあらためて思いました。

取材ではお忙しい中、きっちりと時間を確保してくださり、おかげさまで思い残すことなく訊きました。ですが結局、紺野さんと「オルガン」の十年について私が言いたいことは、最後の数行に全部詰まっている気がします。

じつは、最後の最後に書き直した部分です。

原稿を書きながらずっと何か肝心なことを書き忘れている気がして、夢の中で思い出して書き直しているうちに目が覚めて、ああ夢だった!と慌ててパソコンへ直行しました。

「敬意」。この2文字が、今回最も書きたかった言葉です。