2021.01.22 05:21東京のお正月 たぶん二十年以上ぶりに、〝秋田へ帰らなかった年越し〟となった。 夫の実家は東京だが、「うちは電車でいつでも来られるんだから、ご両親に顔を見せてあげて」という義母の優しさに甘えること毎年末。ひょっとして結婚後初めて東京の大晦日かも、と気がついて、我ながらびっくりしてしまった。 だが、もっと驚いたのは夫の落胆ぶりだ。彼はなぜ、一年の仕事を終えた後にも妻の実家仕事が待っている秋田を、そんなにも楽しみにしてくれたのか。 そこにダダミがあるからである。腹から割きたてのぷりぷりを、生で、湯引きで、天ぷらで、焼きで、鍋で食べられるダダミ天国。 右手で頬張り、左手で新酒をついーっと流し込む幸福絵図が、長年にわたり彼の脳裏に刷り込まれていた。 東京ではなんでも手に入る...
2021.01.17 06:35もりかげ商店のチーズプリン卵と牛乳がクリームになってしまうカスタードは、どこか童話的な食べものです。単純。だからこそ永遠に記憶の片隅にいて、不意に現れては大の大人を一瞬に子どもへ戻してしまう、魔法のような。BRUTUSの「なにしろカスタード好きなもので。」で、もりかげ商店のチーズプリンを書いています。目黒の古い長屋でときどき店を開けるもりかげ商店と、ゆっくりと静かな喋り方の(印象に反してひょろりと背の高い)森影里美さんは、私に言わせればそれ自体がファンタジー。いつもかりんとうやレーズンサンドなどが並ぶこの焼き菓子屋に、新しく登場したチーズプリンは、彼女が子どもの頃に大好きだった商店街のケーキ屋の味。その物語も、北海道・室蘭という言葉の響きさえもきゅんきゅんしてしまいますが、何よ...
2021.01.14 08:28井さんのあか牛今年から、『月刊 日本橋』での食エッセイ「食の源をたどれば」が始まりました。日本橋は全国への起点。とのことから、日本全国に散らばっている食の生産者たちの素顔を語るエッセイです。第1回「井さんのあか牛」は、熊本・阿蘇であか牛を育てる井 信行さん。とにかく明るい井さんのお話で、日本橋の人たちに元気になってもらいたいと思います。ところで『月刊 日本橋』は創刊42年。日本橋は江戸400年の歴史を背負う街。街の人に読み継がれている、街の雑誌に関われて光栄です。
2021.01.13 03:47アクアパッツァ1990年は、イタリア料理好きにとってはファンファーレが鳴り響いた年です。もちろん80年代から「イタリア帰り」の店がじわじわと、東京のニッチな人たちの間では盛り上がりつつありました。そこへ「イタめし」「ティラミス」、そしてこの店が登場。「アクアパッツァ」であり、日髙良実シェフです。その30年を、dancyu30周年スペシャルエディション「東京で三十年。」で書いています。8年ほど前、別の取材で「アクアパッツァ」を訪れた時、「20周年を記念して、みんなが作ってくれたんです」と、日髙シェフが赤いメッセージブックを私にくれました。卒業生から寄せられた直筆メッセージをまとめたものです。これは卒業文集だ!とジーンときたと同時に、ああ、「アクアパッツァ」はイタリア料...